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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)625号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人武田貴志の上告理由一、二について《略》

同三について

自働債権又は受働債権として複数の元本債権を含む数個の債権があり、当事者のいずれもが右元本債権につき相殺の順序の指定をしなかつた場合には、まず元本債権相互間で相殺に供しうる状態となつた時期に従つて相殺の順序を定めたうえ、その時期を同じくする元本債権相互間及び元本債権とこれについての利息、費用債権との間で民法四八九条、四九一条の規定の準用により相殺充当を行うべきである、と解するのが当裁判所の判例とするところである(昭和五五年(オ)第三九六号同五六年七月二日第一小法廷判決・民集三五巻五号八八一頁)。

原審の認定した事実及び原判文によれば、(一)本件(1)ないし(3)の自働債権総額は一五五万円であり、本件受働債権の総額一五〇万円を超えること、(二)自働債権(1)ないし(3)は、いずれも期限の定めのない債権でありおそくとも昭和五〇年六月一〇日には成立し、かつ同日相殺に供しうる状態にあつたこと、(三)したがつて右自働債権(1)ないし(3)は同順位で各債権額に応じて、まず受働債権のうち先に弁済期の到来する五〇万円の債権に対しては同期日に相殺適状に達し、次いで、のちに弁済期の到来する一〇〇万円の債権に対しては同期日に相殺適状に達したこと、(四)右各債権を順次相殺した結果、受働債権総額一五〇万円が消滅したこと、というのであり、更に原判文に徴すると、原審は右確定した事実関係のもとで民法四八九条を準用して、本件(1)ないし(3)の自働債権のうち、各債権額に応じて受働債権のうち弁済期到来の順に総額一五〇万円に充つるまで法定充当に準する取扱いをすべきものとの判断のもとに相殺充当した趣旨であると理解することができる(したがつて相殺に供された各自働債権額は、(1)の自働債権一二〇万九六七八円、(2)の自働債権九万六七七四円、(3)の自働債権一九万三五四八円である。)。そうすると、右原審の相殺充当についての判断は、前掲判例の趣旨に照らし正当として是認することができ、また所論引用の判例にも反するものではない。論旨は、採用することができない。

(裁判長裁判官 鹽野宜慶 裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 宮崎梧一 裁判官 大橋 進)

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